「ムンちゃん、ちょっと困ってんねん。
1万円持って梅田まで来てくれる?」
「どうしたんテラさん。
用意してたら30分以上かかるけど ええの?」
「梅田のいつものカフェまで来て。
1万円忘れたらアカンよ」
「わかった、ほなあとで」
テラさんどうしたんやろ。
えらい早口やったナア、急いでんのかなあ。
「ムンちゃん元気?
どっかお茶飲みに行かへん?」
「テラさん?
梅田まで来てって今電話かけてきたとこやんか!
え~どういうこと?」
「ムンちゃん、その電話AIからや。
誰かのイタズラか詐欺やで。」
「1万円持って来てって言うたよ、テラさんの声で」
「AIは文章作るだけやないねんて。
本人そっくりの声を復元出来るらしいよ。
恐ろしい世の中になったねぇ。」
「まだ信じられへん。
てっきりテラさんがサイフ落として困ってるとばっかり思って、今出る用意してたとこやで。」
「ゴメン、ちょっとムンちゃんをからかっただけ。
でもな、もうすぐそんなことが起きるねんで。」
「もうテラさん人が悪い!
ホンマや思ってたのに。」
「ゴメン、ゴメン。
でもな、詐欺師は1万円やなんて言わへんよ。
合言葉、決めとこか、私やてわかるように。
“キツネとタヌキの結婚式” なんてどう?」
「なんか、だまされそうや」
(玉麗)