“ムー” 一族

「う〜ん?」
「うーん・・・・・」
「う〜ん!」

娘が、おじいちゃんはこれだけで会話してたなあと言う。

その頃の父の年齢になって、なんとなくわかる気がすることがひとつ。
ひょっとして喋るのが億劫だったのではないだろうか、と。

若い頃から饒舌ではなかったと母が言っていたが、晩年、ますます口数が少なくなった。

私達がムー爺さんと呼んでいるのは、いつも口をへの字にムーッと結んでいたからだが、かと言って機嫌が悪いということでもなく、そういう顔だったのだ。

女の子の孫が少なく、おじいちゃん、おじいちゃんとなついていたのは、娘だけだったように思う。
ムーッとしているせいだったからかもしれない。
娘は、ムーッとした顔に頓着せず、赤ちゃんの頃から父に親しんでいた。

成長して車の免許を取る時、田舎の教習所を選び、1カ月ほど父と暮らしたことがある。
ムー爺さんと高校生の娘は一体どんな話をして過ごしていたのか。

教習所での出来事をペチャクチャ喋る孫に、目を細めて「う〜ん?」「う〜ん!」と答えたであろう祖父。

ふと鏡を見て、父と同じムー顔をしている自分に気づいて、笑ってしまう。
そういえば最近、前ほど喋らなくなった。
耳にはちゃんと届いているんだけど、言葉が滑らかに放出されない。
喋るのが億劫になってきたのか。

(玉麗)

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