月ガエル

「スリム」と名づけられた月面探査機を載せた、H2Aロケットが打ち上げに成功した。

スリムは、一緒に打ち上げられた衛星クリズムと前後してロケットから分離され、月面の実証という高度な役目を担う。

月の周回軌道に到着し、着陸するのは4〜6カ月後のことだと新聞で読んだ。

夜空にポッカリと浮かんで見える月が、いかに遠くに在るか実感のないまま、そうなんだ、と感心している。

うちのスリムも、月に連れて行ったと風太から報告を受けた。

なんで月なのかと思っていたら、きっとこの情報をつかんでいたからなのだろう。

スリムはしょっちゅう、石になっていた。

眠っている時、石のように固まって動かなくなる。

裏返しにされてもそのままじっとしている。

その様子を天空から見ていた風太の采配なのか。

月面の石の中にカエル型のものがもしあったら、それはスリムという名の石ガエルだ。

月にはウサギがいると伝えられてきたが、カエルがいてもいいだろう。

地上から見る月があのように美しいのは、人々の想いが凝縮されているからだ。

2023年の中秋の名月・満月は、9月29日。

その月は、ことのほか美しく輝いて見えることだろう。

探査機「スリム」が、石ガエル「スリム」の冬眠を覚ましてくれるのは、地上に梅の花がほころび始める如月の頃か。

(玉麗)

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