「あ、カミキリムシが歩いてる!」
娘が指差す方を見ると、けっこう長い触覚をふりふり、ベランダの床を歩いている虫。
手でつまむと抵抗するかもしれないので、雑巾に乗せて室内に移動させた。
夕食後のことだから、辺りは少し暗くなっている。
わが家は植物が多いので、うっかり今夜の宿を間違えたのだろう。
カミキリムシは娘の手の上から腕の方へ這い上がる。
この大きさの個体を間近で見がことはない。
体を摑もうとすると、ギイギイ、と音を出す。
それで、子供の頃の記憶が蘇った。
田舎と言えども、チョウやアリ、トンボなどのようにしょっちゅう目にすることはなかった。
カミキリムシを捕まえると、ちょっとした自慢ができたように覚えている。
自分の髪を抜いて、カミキリムシに切ってもらう。
「わーっ やっぱりカミキリやー」
と、他愛なく喜んだりもした。
体の色は黒ではない。
濃紺で白い斑点がある。
触覚も絵に描くと、点・点・点となるが、まさにその通り。
そして極めつけが音である。
セミのようにうるさくわめき立てることはなく、ギイギイと鳴く。
それがなんとも好ましい。
と勝手なことを言っているが、かの虫にとっては「やめてくれい」と意思表示しているに違いない。
触るとギイギイなのだから、嬉しくて音を出しているのではない。
箱に入れて、ハクサイ・ニンジン・ズッキーニ(しかなかった)を置き、今夜はベランダで泊まってもらうことにした。
暗闇に放したら、またとんでもないところへ行ってしまうかもしれないので。
明朝、下の花壇へ連れて行って放そうと思っている。
(玉麗)