夕方である。私は西日に向かって歩いていた。先日手に入れ、いたく気に入っているパラソルを目深にさして。
老紳士にぶつかりそうになり、直前で回避した。その時点でパラソルは真上にあり、私の、ウワッという顔が相手に直視された。
“夜目、遠目、傘の内” と言う。
濃紺に真っ白テープの縁取りのある日傘は、内なる人を美人と思い込ませるだけの実力を持っているのかもしれない。紳士はびっくりした顔を見せた。いや、単にぶつかりそうになって驚いたのかもしれない。
「バアさんで悪うござんしたネ」
すれ違いざまに言ったのではない。心の裡でつぶやいたのでもない。スネバアさんにはなりとないナァと思いつつ書いている。
(玉麗)