おもしろ英雄列伝「気にするな」

元会社での出来事。

新入社員1年目の私は、ある日、経理部長の前でブスッとしていました。

一体何が?

 

同じ部署の女性先輩が退職して、私は彼女の仕事をいくつか引き継いだのですが、社内の検査で引っかかったのが、その仕事のひとつ。

何か問題があったわけではないのですが、私の知らない過去のデータを全部調べて書類を持って来い、ということになったのです。

 

通常、他部署から直接仕事を言いつけられることはありません。

えらい人だからといって、他部署の新人をこき使うことはルール違反。

まずその部署の長を通さねばなりません。

 

この時、どういう状況だったのか思い出せませんが、経理部の部長も、その上のおエライさんから何か急な仕事を命令されたのでしょう。

会社ではあるあるです。

急いでいたからこそ、データ管理を担当していた私を直接呼び出し、状況を確認しようと思ったのかもしれません。

でも、新人の私には「うちの上司にまず話してください」というような対応もできず、とりあえずてくてくと経理部に向かったのでした。

で、冒頭の状態に・・・

 

経理部はうちのフロアとは違って1つ部屋が独立しており、その奥の部長席の前で立たされた私は、ずっと不服顔。

(なんでこの人に怒られなあかんのだ・・・)

という気持ちが顔に出ていたと思います。

しかもあろうことか、怖いもの知らずの新人は部長に向かって

「過去のデータ、ぜんぶ調べろってことですか」

と生意気発言。

「当然でしょう、急いでちょうだい!」

語尾がオネエ風ですが、オネエ部長というわけではなく、関東出身で常に標準語(それだけでなにわのオッチャン連中からも敬遠されがち)だったのですね。

笑顔を見たことがない経理部長は、10階フロアーで賑やかな大部屋育ちの私には、というか多くの人が馴染めない怖いおじさんでした。

「はい・・・」

げっそりと私は経理部をあとにし、エレベータホールでボタンを押して待っていました。

その時。

バタン!と経理部の扉がひらき、出てきたのは1年上の先輩、Tさんです。

彼は足早に私のもとにきて、

「あの人、誰に対してもいつもあんな感じやから、気にせんでええで!」

早口でまくし立てると、またパタパタと自分の部署へ戻って行きました。

 

ポツン・・・・

え??

 

一瞬、何が起きたのか分からなかった私ですが、

(ああそうか、私のことを励ますために・・)

しょんぼりしていた私は急に笑顔になって、エレベータに乗り込むと

「めっちゃいい人!」

と感激しました。

 

私を励ましてくれたTさんは、実は社内では「変わり者」「偏屈」と噂される人物でした。

当時の男性社員は体育会系も多く、先輩・後輩のタテのつながりが強い社風。

なので、その枠にハマらない場合はイジられキャラとして可愛がられるか、全く相手にされないか、というようなハッキリとした派閥のようなものがあったのです。

見た目がいわゆる草食系で、愛想もなく頭の良いTさんは、単純明快な体育会系にはちょっと扱いづらい存在だったのかもしれません。

先輩だけではなく同期からも浮いた存在でした。

 

しかし、ほとんど話したこともなかった私には、今回の一件で、「正義感があって後輩思いの良い人だ」と印象付けられたのです。

私の後をすぐ追っかけてきて、励ましの言葉をまるで業務連絡のように伝えて立ち去る、という様子も、不器用でとても好感が持てるじゃないですか。

 

私は子供の頃から同調圧力が大嫌いなのですが、Tさんのことは、やっぱり何事も自分で考えて判断しないと!改めて感じた出来事でした。

それ以降も、相変わらずつっけんどんで愛想のないTさんでしたが、時々見せる笑顔は可愛いかったので、私にとってはやっぱり憎めない良い先輩として記憶に残っています。

(雪)

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