新大阪駅構内にひとり残った私は哀愁を感じつつ、入場券の超過分を支払うため精算所へ向かいました。
そろそろ新幹線も本数が限られ、先ほどまで賑わっていた構内も、人が減って寂しげに感じられます。
精算所窓口には、2人。
・・・・
・・・・・
・・・・・・・・おっそ!!
私の従属変数が苛立ちで重さを増したようです。
先ほどの友達とのひと時は、狭いカフェの狭いスペースで周りを気にせず、没頭してお喋りできたのに。
絶対、違う時間流れてるやろ。
遅いし眠いし早く帰りたいのです。
従属変数は間違いなく10分を正しく経過しました。
「新幹線」にまつわる場所には、魔物が住むのでしょうか。
人がいるとイタズラをし、人が去ったあとはお祭り騒ぎでもするのだろうか。
おい、誰や魔物は!
前に位置する2人の女性の背中には、邪悪さは全く感じられません。
むしろそれぞれ、自身の従属変数と戦いつつ、時折後ろを振り返って泣きそうな顔に見えます。
つまり、「時間がかかってすみません」という感情が読み取れます。
私はなるべく怒りのオーラが噴出しないよう努力するが、辛い。
たっぷり15分は経過したあと、ついに私の番が来ました。
危なかった、私自身が、魔物になりかけていたのだ。
超過分を支払い、さっさとここを立ち去りたい気持ちです。
「超過されていますね・・」
私が駅員に渡した入場券の入場時間の下に、彼はペンで何かを書き始めました。
何を書いてるのだ。
私は少し背伸びして手元を観察しました。
私の入場時間が18:25と印字されていて、彼はその下に、19:25、20:25、21:25、22:25と小さく時刻を書き込んでいました。
・・・なんだそれは?
私は戸惑いました。計算・・・・しているのか・・?
超過分はわかっただろう、後生だから早く払わせてください。
駅員「失礼ですが、入場されてからどちらに行かれましたか?あっこれは、確認のための質問なので」
何の確認なのだ?
私「ドトールです」
職務質問されているような気持ちが、またゆっくりと私を魔物へと変えてゆくのを感じます。
ああ、この感覚は久しぶりだなあ・・・・
駅員「あのーそれを証明するものはありますか、レシートとか」
私はこのまま新幹線の留置所に放り込まれるのかと怯え、素早くレシートを出しました。
失礼します!とそれを受け取り何かを確認して確信を持ったような顔をした駅員は、
「あ、これはいいですね!これはバッチリです!助かります!」
助けてくれ!
彼の確信と共に私が確信したのは
『お前だったか・・・・・』
という恐るべき真実でした。
前に並ぶ2人の女性のあの表情の本当の意味は、私に対して「時間かかってすみません」ではなく、「ああ、あなたも同じ目に・・・」の同情が込められていたのです。
彼は再び計算を始め、
「ええっと、計算すると・・・2時間と少しの超過になりますね」
私は有能な弁護士のように、準備していた切り札を「意義あり!」とばかり投げつけました。
「ここでかなり待っている間に2時間を過ぎたんですけど」
この意義は却下できまい。
痛いところをつかれた駅員は、
「あ、そうですね、長い時間お待ちいただいていて、僕もそれはしっかり確認していました!」
2時間の超過は150円なので、それを超えると倍の300円となるようです。
彼は「確認します」と言って電話をかけ始めました。
あ、もういいです!
もう帰りたい!
長々とまた電話が続いています。
私「あの!いいんです、300円払いますので」
私の声はかき消され、それからまた150円を巡ってどのような議論が交わされたのかわかりませんが、ようやく受話器を置いた彼は
「150円で、大丈夫です!」
まるで自分の営業力で仕事を勝ち取ったかのように、誇らしげに言いました。
ああ、そうですか・・・私のかりそめの魔物は本物の前にとっくに姿を消し、代金を支払うと、
「領収書はいかがされますか!」
「いりません」
食い気味に答え、逃げるように立ち去る私の姿は、先ほど私の前に並んでいた2人そっくり同じでした。
(雪)

