この世のあらゆることは、説明書に従っても、正しいやり方でやっても、人に教えてもらっても、どうしてもわからない、思う通りの結果にならないことがあります。
そんな時、一体どうしたらよいのでしょう?
会社勤めをしてすぐの新入社員時代、1人暮らしを経験したことがあります。
ぬくぬくと快適な実家暮らしから一転、1人でなんでもこなさねばならない毎日。
様々なトラブルがありました。
その中の2つをピックアップします。
1つ目はアシナガバチとの闘いです。
昆虫界においてハチは最強クラスの種類だと思っているのですが、中でもアシナガバチ・・・そのビジュアルや飛行スタイルからも、只者ではない恐ろしさが伝わってきます。
そんな輩が1人暮らしの私の部屋にどうして紛れ込んだのか。
フト天井を見上げると、いるのですそこに。
かつて玉麗先生が若かりし頃、同じように郷里の家の中でハチを見つけ、持っていた洗濯物をブン回して撃退し、数カ月後、カラカラになった洗濯物とハチの死体が見つかったという、屈強なローマ戦士のようなエピソードは、我が家では何度も語り継がれる伝説となっています。
洗濯物という武器もなく、コロシアムで闘うタイプでもない私は、部屋の中で浮遊するアシナガバチにたじろぎましたが、なんとか穏便に追い出せないかと考えました。
こちらから戦闘を仕掛けて、もし返り討ちにあっては大変です。
時間帯は、夜。
天井の灯りに吸い寄せられたのかもしれません。
ハチに気づかれないようそっと、しかしものすごい速さで私はオリジナルの捕獲器を作成しました。
室内干し用の長い木の棒に、ビニール袋を取り付け、テープでしっかり止めて完成。
さながら、ものすごい不細工な虫取り網といったところでしょうか。
ハチ特有のフワフワ浮遊するような飛行スタイルは、何かのきっかけで一気にスピードを増します。
戦闘意思が伝わるような刺激があってはなりません。
意を決した私は、アシナガバチのフワフワの動きに合わせて、超スロースピードでそっと不細工な虫取り網を近づけます。
そして、長い時間をかけて、まるで能の演舞のように1ミリずつ目標に接近し、優しい動きでアシナガバチの周りをバリアで包みました。
つまり、捕獲したのです。
しかし・・・
捕獲はしたが、どうする一休さん!
不細工な虫取り網のビニールの中に今、アシナガバチは捕えられているものの、そのビニールの口部分は天井に押さえつけられた状態です。
ローマ戦士より強い、この世の「お母さん」と呼ばれる人たちであれば迷うことなく
「ビニールごと叩き潰す」
という手段が頭に浮かぶかもしれません。
私はお母さんではなく、ローマ戦士でもなく、ただの弱っちい新入社員。
それに、襲われたわけではないのです。
今のところ、ハチに「ん?捕獲された?→何やっとんじゃコラ!→戦闘スタイル」という様子は見えず、相変わらずフワフワとビニール内を飛んでいます。
よし・・・そのままでいてくれよ・・
長期戦を覚悟し、大汗をかきながら私は天井のビニールをジリジリと移動し始めました。
生捕り→そのまま外へ放つ
という選択をしたのです。
これは、ある意味「叩き潰す」より難しい戦略です。
ゆっくりと不細工な虫取り網を移動させて、ベランダの窓に接近し、片手で窓をそっと開きました。
天井から壁へ直角になる難関部分を一体どう切り抜けたか、正直覚えていませんが、開いた窓に到達した時、刺激を与えぬよう不細工な虫取り網ごとそっとベランダに起き、サッと窓を閉めました。
恐ろしく体力を消耗しましたが、翌朝ベランダのビニールの中にはハチはいませんでした。
物理的なチカラは使っていませんが、なんとか強引にトラブルをのり切ったという点では、チカラ技と呼べましょう。
この「捕獲→放つ戦法」は、最近ではカメムシに適応させています。
(雪)

