「シュル」〜その後〜

「うわっ 光ってる。来るゾ!」

稲妻、雷鳴、一寸先も見えぬドシャ降り。

 

「雨だけって訳にはいかんのかねェ。いつもいつも賑やかすぎるよ。」

「夏場はムリだね。雷神と眷属(けんぞく)が必ずついて来る。
アイツらのエネルギーは夏空に満ち満ちているらしいよ。
俺の雨で倍増するんだってはしゃいでる。」

「ふうん、じゃあ仕方ないネ。けど、悪さだけはするなって言っといておくれよ。」

滝のような雨の中、カーサにしか見えない龍がニヤリと笑った。

 

あの一件以来、落雷を恐れている。

釘を打とうとカナヅチを振り上げた時だった。

バリバリドーーン!!

何の前触れもなく。

すぐ近くの大木がカーサの代わりに火を吹いた。

黒焦げの祠が出現した大木を見て、背筋が凍りついた。

以来カーサは、夏空に黒雲が現れると慌てて屋内へ駆け込む。

けれどもじっと籠ってはいない人で、扉をそうっと開けては外の様子をうかがい見る。

その途端、またしても凄まじい音がする。

その度に首を縮めて扉を閉める子供じみた様子に、雷神たちは大笑いしているに違いない。

 

それでもやっぱり見たい。

そこにいるはずの子に声かけしたい。

賑々しい連中が去った後、篠つく雨の中に潜む龍がカーサの心に語りかける。

 

「シュルは今夜来ていないよ。カミナリと雨が大嫌いなのは今も変わらないンだ。
カーサが描いた俺とシュルの絵、月の夜だったろ。
シュルは月夜が大好きなんだ。

時々、天空の泉からカーサたちを見てるよ。
その時尾っぽがピコピコ動くんだ。
それを見て、ヒューラが目をウルウルさせて喜んでる。

シュルは誰にも尾っぽを振らないからネ。
カンノンサマは別だけど。」

 

シュルが元気だと聞いて鼻の奥がツンとした。

カンノンサマからもう2度と来てはいけませんよ、と言われている。

かつてサクラが決死の覚悟で天空の国へ出発し、カーサも後を追って後先考えず行動した。

もう遠い昔のことに思える。

 

いつかは行く処、けれどもそれは今ではない。

天空の国と下界とは「想い」で繋がっている。

現世の人々が逝ったものたちを思い出すことで、蘇り、生き続けられる天空の住人たち。

 

「じゃあ、もう行くよ。シュルが待ってるだろうから。」

ほんの半刻雨を降らせると、龍は素早く立ち去った。

もう稲妻も雷鳴もどこにも姿は無く、少し湿った風が時折吹いてきた。

まだ夏は終わっていない。

盆が近づいている。

(玉麗)

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