私の住む近辺は都会にしては緑の多いところだ。
しかし郊外へ出ると、その量が違う。
よく雨の降る今年の梅雨は、樹木たちにこれでもかとばかり水分を与えた。
その水の恵みを充分に受け取り、樹はより多くの葉を付け、木は逞しく成長した。
奈良、明日香。
圧倒的緑が私たちの目の前に広がる。
林太郎さんは、性格の好ましさを全身から感じられる人であった。
そして彼に育てられたオオムラサキもまた、人懐こくおおらかで、突然の訪問にも何の違和感もなく、私たちを迎えてくれた。
一般公開はしていないと新聞に書いていたので、アポなしではお会いすることも出来ないだろうと、せめて外から網越しにオオムラサキの羽根の色を見るだけでも・・:と思っていた。
すでに先客が2組解いて、林さんが身振り手振りでチョウの生態を説明されていた。
私たちはそうっと入り口の網を開けて、飼育場に足を踏み入れた。
オオムラサキが、天井の網に何頭もくっついている。
よく見ると壁面にはサナギの抜け殻が一列にビッシリ。
今年は1,500頭だと聞いた。
パタパタの羽音がしたと思ったら、私の帽子の上に4頭も止まった。
肩にも、手を差し出すと指先にもとまってくれた。
もう大興奮である。
子供が母親と一緒に来ていた。
私の帽子を見て羨ましがっていたその子の背中に、メスがやってきて卵を産んだ。
大騒ぎである。
太郎さん(以後、蝶太郎さん)は笑いながら、少しも慌てることなく卵を採って植木鉢のエノキの根本へそっと置いた。
「自分でちゃんと登っておいでや」と言いながら。
卵はやがて孵化して小さな虫となり、親(蝶太郎さん)の言いつけ通り木を登って、葉に到達するのだろうナと思わせる光景であった。
ようく見るとエノキの葉の先にピカチュウみたいな青虫がいる。
その隣には昨日孵化したぐらいの小さな子が。
「小さくてもモリモリ食べていますね」と娘が言う通り、少しずつ葉が欠けてゆくのが見える。
(玉麗)