のどかな日 その2「ヌッちゃん」

午後の散歩と書いたが、毎日行っている訳ではなく、私は元来「散歩」だけというのが苦手なヒトだ。

あそこまで歩いて行って何かを買ってくる、あるいは見たいものがあるので歩いてそこまでいく、そんな風に何か目的があって、ついでに体を動かせている、それが好みに合っている。

つまるところ「ゆったり人生」には程遠い人間なのだろう。

以前、川の畔で住んでいるヌートリアのことを書いた。
娘の話だと大阪城公園のお堀にも住んでいるらしい。

ヌートリアはネズミを大きくしたような体型で、顔にはいっぱいヒゲが生えている。
顔自体もネズミっぽいが、ネズミは黒い粒らな瞳が可愛いけれど、ヌーちゃんはかなりブサイクで、目も小さく褒めるところが見当たらない。

そのヌーちゃんを餌付けした人達がいる。
その時間になると、老夫婦がパンを持って現れる。

ほどなく、ヌーちゃんが水面に顔を出し、老夫婦から手渡しでパンをもらう。
そうこうしているうちにもう1匹がどこからか泳いでやってきて、2匹揃って手を出す様は、ブサカワってこのことかなと思ってしまう。

私なら、ヌーちゃんと呼ぶだろうけれど、老夫婦がつけた愛称は「ヌッちゃん」だった。
「ヌッちゃん」の方が彼らに合っているかもしれない。

先日その場所を通りがかったら、30前半ぐらいの男性が1人立っていた。
ヌッちゃんが川岸にいて手を出しているが、その人は見ているだけで何も持っていなかった。

私は食パンの耳を少しだけ袋に入れていたので、ヌッちゃんに投げてやった。
その途端に、どこから見ていたのかハトが30羽ほど、バサバサと群がった。

「スゴイですね」
「どこで見ているんでしょうネ」

見知らぬ青年とバアさんが言葉を交わして、「では・・・」と私は通り去った。
それだけのことだが、ヌッちゃんのいる風景はのどかであった。

(玉麗)

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