マスカット

花を見ながら朝食を摂る。

わが家ではあたりまえのことだったが、工事で鉢植えを減らしたので、緑だけになってしまった。

しばらく咲かなかったブーゲンビリアが3枝に花をつけた。

萼(がく)が花のように見えるが、このマゼンタピンクの中に小さな白い花が咲く。
色の対比が鮮やかで愛らしい。

 

先日プリプリしたぶどうを頂いた。

美味しいものを持ってきてくれるのは、Nさんと決まっている。

岡山から送ってきたとのことで、このように新鮮で美味しいマスカットを久しく口にしたことがなかった。

遠い昔のこと、私の幸せな結婚生活は長くは続かず12年間で終了したが、良い思い出もたくさんある。

義母の生家が、岡山で白桃とマスカットを作っている農家であった。

岡山はフルーツ王国で、中でも義母の弟の農園は最優秀品を出荷する地区に在った。

大粒のぶどうの房がズラリと垂れ下がって成っているハウスへ案内してもらった時の驚きは、今も鮮やかに甦る。

白桃は庶民には口に入らない時代でもあった。

その宝石のような果実を私は口にすることが出来る境遇にあった。

経験の浅い田舎育ちの私は、離婚という当時としては一般的ではなかった一大事を敢行し、予測出来ない未来に足を踏み入れた。

以来前だけを向いて歩いてきた。

努力は人一倍したが、苦労をした感覚はあまりない。

あの頃の夫任せの幸せというものが今もずっと続いていたら、それはそれでとてもいいことであっただろう。

けれども「玉麗」はきっと存在していない。

Nさんのプレゼントは図らずも、今の私を再認識する機会を作ってくれた。

Nさんはこのマンションを決める際の重要な人であった。
偶然にも名前が同じ、もう30年のお付き合いである。

昔、マスカットオブアレキサンドリアと呼んでいたが、品種改良して、種ナシ、粒が大きい、皮ごと食べられるシャインマスカットになったらしい。

(玉麗)

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