「絵を描くこともお料理を作ることも、手順があるという点では同じなんです」
娘は手本を描く時、こう言いながら始めることがある。聞き手の会員達は主婦歴ン十年のベテランがほとんど。その面々に料理の手順云々と言い出して、側で聞いている私としてはハラハラするばかり。
しかしまあそこは何とかクリアしているようで、「先生、それって順序が逆ですヨ」との指摘はまだ今のところ受けていない。
彼女はよく食べものを例にとって説明する。たとえばこのように。
「墨は濃くすって下さい。玉麗流では、よくすった墨をとき皿でのばして薄くします。コーヒーはコーヒー豆を煎った粉を丁寧に抽出して、あとから好みでお湯を入れたりミルクを入れます。でも、最初から薄く抽出はしませんよね」
この日の教室では、「先生!すごくよくわかる説明でした!」との好評を頂いたとか。
娘は食べものに対して敬意と賞讃を惜しみなく抱いている。絵を描くことを教える生活の中に、それは上手く取り入れられているようで、上記のような言葉として現れている。
おなかが空いたらとりあえず何かを口に入れるような、食べものに対してあまり愛着のない私には、とても真似の出来ないことだと、ひそかに脱帽している。
(玉麗)