風太がいた頃、淀川の河川敷へ自転車に乗せてよく行った。
広い広い芝生の上を駆け回る風太を追って、私も元気に走っていたなあ。
もう20年も前のことだ。
このところ体調が良くなかったのでほとんど家の中でいた。
テレビを見るぐらいしか用がなく、これではいけないと思って外へ出た。
ふと思い立って淀川に近い公園まで足を向けた。
途中で、行ったら帰ってこなくちゃいけないのに体力持つかなと心配になったが、休み休み片道30分ほど。
ここへもしょっちゅう来ていた。
その頃はまだリードを離しても誰も文句を言わない時代で、おしっこやウンチが終わったら走らせていた。
細く長い脚で駆け回る風太が自慢であった。
ある日同じ犬種を連れたオジサンがやってきた。
風太の方がスタイルも顔もずっといいと思ったが、1ツだけ羨ましいところがあった。
その子は革製のとてもカッコいいベストを着ていたのだ。
聞けば、とある店で別注したとのこと。
「うわっスゴク高そうですネ。」
と驚く私にオジサンは満足げであった。
きっとウン万円もしたのだろう。
風太も別注のバンダナのついた首輪をしていた。
私が作ったものだ。
秋口からは特製のベストを着せていた。
被毛が短いので寒がりで、冬場はウールのモコモコを着せた。
細いくせに胸板が厚く、既製品ではどれも間に合わない体型であった。
今も風太の服一式を入れているケースがあって、時折取り出して懐かしんでいる。
帰り道、クサハギやヨモギの花を折ってきた。
走り回った後の風太を捕まえると、クサハギの実だらけだったこともあった。
遠い昔のことが蘇ってくる。
けれどもそれはもう2度と実感出来ないまぼろしなのだ。
(玉麗)