私の「眠気3大ホラー話」もこれで終わりです。
最後のはちょっと怖いです。
と言っても、オバケの類ではありませんので安心してください。
私が会社の同期の子たちとハワイに行った時の話です。
オワフ島かマウイ島かちょっと忘れたのですが、「早朝、山に登って雲海や日の出を楽しみ、その後明るくなってから自転車で山を下る」というツアーがあって、私たちはそれに参加することになりました。
早朝どころか3時かもっと前にマイクロバスが私たちのホテルに迎えに来て、ある場所に集合させられました。
そこでは、自転車に乗るためのツナギやヘルメットなどの装備と、朝食のパンなどが支給され、私たち旅行者はツアーの人に説明を受けてから、夜明け前の暗い山道を車でドンドコと登り始めました。
ついに到着した山頂は、常夏の島ハワイとは思えぬほどの気温差でブルブル震えるほど寒く、先ほど支給されたツナギの意味がようやくわかります。
ようよう白くなりゆく山ぎわ・・ではなく空全体が白々と開けてきた頃。
さて!
と元気一杯のツアーのリーダーが私たちを集め、今から自転車で山を下りるぞ!といった話をし始めました。
何人かのグループに分けて、現地のリーダーが各グループの先頭をしきり、我々がそのうしろ一列になってついてゆく、そういった説明のようでした。
私たち日本人は6人の同期グループで安心でしたが、いざ走り出した時には時速30kmは出てるんじゃないかというくらい、けっこうなスピード感でした。
山の下り傾斜ですから。
一列の隊列を組んでただ猛スピードで下るため、「わ〜、きれいな景色」と楽しむ余裕もありません。
ガードレールのない山道は、勢い余って突っ込むと、紫だちたる雲が細くたなびく山際に真っ逆さまに落ちていくはずです。
異様な緊張感が私たちを包んでいました。
そんな時。
現れたのです、またもや、私にささやく悪魔が・・・。
しかし今回は、優しく声をかけてくれる課長も歯医者さんもいません。
張り詰めすぎた緊張はピークを過ぎると、緩和を求めるのでしょうか、いや単に寝不足のせいだろう、風を受けながら猛スピードで下る自転車の上で、私はついにこくっと眠り始めました。
猛スピードで突っ走る自転車の上、絶体絶命です。
その時。
私の後ろで、私の異変にいち早く気づいた同期のKが、ただでさえ速いスピードを出しているにもかかわらず、さらには「隊列を決して乱すな」というリーダーの言いつけに背き、私の横に並走したのです。
「ゆきーーーーーー!!!!」
「起きやーーーーーーー!!!!!!」
大声で私をスイマから救ってくれました。
なんとかKのおかげで意識を取り戻した私は、スイマを蹴散らし、必死に自転車にしがみついていました。
一度走り出したら止まれないこの状況は、まさにアクション映画「スピード」!
この山下りツアーが想像以上に過酷なものであることを、今さらながら知ったのでした。
ようやく平坦な道に辿りついたとき、私は命の恩人Kに心から感謝しました。
しかし考えてみてください。
山の下り傾斜によって加速度運動でスピードが出ている物体に追いつこうとした場合、Kはさらに速度を上げるため、ペダルを一気にこいだに違いないのです。
その一瞬の判断力と勇気、優れた運動神経、そして仲間を思いやる正義感にどれほど私は感動したでしょう!
Kがキアヌリーブスだったなら、映画と同じように間違いなく私、サンドラブロックは彼に恋をしていたに違いありません。
でも、喜びを分かち合う暇もなく、今度は先ほどの山頂の冷えと緊張と、本物の緩和(安心感)が一度に私を襲い、急にオナカが痛くなって次は「トイレ!」と騒ぎ始めたのでした。
「スピード2」です。
色々ありましたが、ハワイ旅行はとっても楽しい思い出です。
Kに会うたび、いつもありがとうと心の中でつぶやいています。
(雪)
後日談:「私を救った奇跡の穴」
山下りツアーの装備として全員に、「ツナギ」と「フルフェイスのヘルメット」を支給されたのですが、Kのヘルメットだけ、なぜか口のところが破れていて大きな穴が!
私たちはそれを見てハワイの山頂で響き渡るくらい爆笑しました。
でも、あの穴は私を救う絶叫「ゆきー!!」のための穴だったんだ・・・・とあとでつくづく感慨深く思ったのでした。