四季の姫と神獣たち〜屏風絵からうまれたものがたり〜

春の姫かすみ

2012年11月、奈良県多武峰の談山神社にて、澁谷玉麗・雪の作品展が開催されました。その中でメインの作品として展示されたのが、4枚の屏風絵「四季の姫と神獣たち」。※屏風の数え方については、このページ下記の「屏風について」をご参照下さい。

この屏風絵は、春夏秋冬をあらわしたもので、それぞれの季節を守る4人の姫たちと姫に仕える生きもの(神獣)が描かれています。

談山神社展開催までの間、予告として作られたムービーがこちら。

『四季の姫と神獣たち(予告ムービー完全版)』

※動画の再生時間:3分30秒(音声はありません)

 

眼の手術

屏風絵を制作した2012年は、いろいろな出来事があった年でした。

中でも一番大変だったのは、玉麗の眼の手術があったことです。「先天性角膜顆粒状変性症」という眼の症状で、片目ずつ行うのですがその間視力がおちてしまい、メガネをかけてもぼんやりしてしまう。大きな作品を仕上げなければならないこの時期に、見えないストレスは相当のものでした。

困難・危機に対して果敢に立ち向かう性格の玉麗も、この時ばかりは悲壮感を漂わせていました。

姫の顔の細部が見えない。全体をつかもうと離れた位置に立つと、今描いた絵がボヤけて画面から消えてゆく・・・。絶望とはこんな状態のことを言うのでしょうか。見えない画家・・・まるで聴力を失いつつあったベートーヴェンのようだと思いました。

しかし、かつてなかったことが自分の身の上に起きている現実をしっかりと確認した時、何かがふっきれたようでした。頼るのは自分の腕と経験が生むカン。

画面が大きいことが幸いでした。春の姫の右上方から下方向にかけて大きな刷毛で流れるように春がすみを描き入れた時、玉麗の顔に笑みが戻りました。

春の姫かすみ

1枚仕上げると、もう迷いは吹っ飛んだのです。

 

“細部は見えなくても、絵は描ける”

 

美しい屏風絵と、玉麗の奮闘する様子がより詳しく観ることができるムービーがこちら。

『姫と神獣、玉麗のものがたり』

※動画の再生時間:5分18秒(音声が出ますのでご注意ください)

 

見事完成した屏風絵は、談山神社(奈良県桜井市)展で初公開され、玉麗の手術も終わり、視力も回復しました。

談山神社展示会 神廟拝所 談山神社展示会  談山神社展示会 墨ライブ 談山神社展示会 蹴鞠まつり

 

 

屏風絵からうまれた“ものがたり”

 

ところで、玉麗はこの屏風絵を描き終えたのち、もうひとつの創作、姫たちのものがたりを誕生させました。このものがたりは、ブログ「玉麗日記」で毎週1話ずつ公開され、完結しました。興味のある方は、玉麗日記のカテゴリ「四季の姫のストーリー」(←クリックで、新しいページが開きます)をご覧下さい。すべてのものがたりを読むことが出来ます。

ここで、ものがたりの内容を少しご紹介しましょう。屏風絵に描かれた姫と神獣以外にたくさんのキャラクターが登場します。

【登場人物】

四季神家:父神、母神、一の姫、二の姫、三の姫、末の姫

四季神家に仕える者:ぼたん老女、ふたりさくら子、加牟豆(かむず)

 

〜日出づる国、にっぽん。

古来より、この国には八百万の神々が御在します。

春夏秋冬を司る神、四季神家には父神と母神、

そして4人の姫達がいました。

 

末の姫が3ツになった年、父神は4人を集めて言いました。

「明日より4人に各々の季節を与える。

一の姫は冬を、二の姫は春、三の姫は秋、末の姫は夏を祭る姫神になる準備をするように」

・・・・・・・

 

父である四季神より、四姉妹はそれぞれの季節を任されるようになるのですが、それぞれの姫の試練、奮闘がテーマとなっています。お茶目な神様が登場したり、ハラハラするようなトラブルが起こったり、起承転結のあるストーリーはこどももおとなも楽しめる内容です。

この姫たちの屏風絵をきっかけに、『ものがたりをつむぐ』という玉麗の新たな境地が、拓かれたのです。

さて、屏風絵が談山神社展の次に公開されたのは、翌年の徳島そごう展。姫と神獣たちは海を渡り四国の地を踏んだのでした。

無題

 

屏風絵は4枚で1つのセットとなるため、相当のスペースが必要となります。いまは静かに眠っている姫と神獣たち。次に皆さんの眼にふれるのはいつのことでしょうか。

談山神社での展覧会→「動画墨ライブ@談山神社」

 

屏風絵について・・・屏風は独特の数え方をします。屏風絵1枚(画面1枚にあたる部分)を、もともと「扇(せん)」と呼び、それが6枚で「六曲」、4枚で「四曲」と呼びます。屏風1つ(曲げて立てた状態)は「半双(はんそう)」と数えます。2つで「一双(いっそう)」です。玉麗の制作した四季の姫のような屏風のタイプは大変めずらしく、あえて言うなら二双(にそう)と数えられるそうです。

しかし、現在では何曲、何双、といってもなかなか一般には馴染みにくいという理由で、独立した半双を、簡単に1枚(1つ)と呼ぶことが多く、それで伝わればとくに難しく考えることはないそうです。

ということで、四季の姫の屏風は、違う種類の絵が4つありますから、「4枚」と表現しています。